またの冬が始まるよ


気持ちイイって、イケナイの?



随分と暖かい日がやって来ては、
やあ今年は春も早く来そうだねと思っておれば、
何の何の、まだまだ暦は真冬ですよ おのおの方と言わんばかり、
冷たい風がびゅびゅうと吹いて、盛り上がりかけてた気持ちをやすやすと挫いてもくれて。
暖冬じゃなかったのかよと頬膨らませると、
五日と経たぬうち、またぞろ暖かい日がやって来るもんだから、
なぁんだと安堵しかかっては
またまた冷たい風の吹く日にさいなまれ、ふりだしに戻るを繰り返す。

 「なんかこの冬はさ、そんな意地悪な段取りになってない?」
 「うん、そんな感じだね。」

自然現象というか、世界中を巡る風の成すことと
理屈じゃあ判っちゃいるけれど。
あまりに忌々しい間合いで人を翻弄してくれてるものだから、
ついのこととて、誰ぞの恣意的な操作が働いているような気分にならんでもなく。
ましてや、自分たちは微妙に“人ならぬ身”であり、
お仲間というか知己というかには、天候を左右できそうな顔ぶれもいたりするだけに。
そんな彼らにしたところで、自身の気まぐれを振り回しているはずはないのだが、
もしやして…鬱憤晴らしでもしているのかしらなんて、
ついのこととて疑ってしまう、
神の子様と釈迦牟尼様だったりしないでもない、この冬だったりして。

 「今日はまた随分と暖かいけど、
  来週は大荒れになってがくんと寒くなるって週間予報で言ってたしね。」

いいお天気だからと、シーツや布団カバーを一気に洗って、
今日がちょうど使用日だった大物用の物干しへ
全部広げて干してきたのがよほどに胸がすいたのか。
またまたその気まぐれが働いて、極寒が来るらしいよと、
それでもにこにこと笑って口にするブッダだったのへ、

 「うう、やだなぁ。」

寒いのって体が重くなる気がするのが億劫なんだよねと、
こたつ布団を肩まで引っ張り上げる勢い、
すっかりと入りびたり体勢になったまま、イエスが口許をとがらせる。
ショムジョの名プレイヤーだったくらいだから、
好きなことでなら軽快なフットワークを見せもするイエスだが、
この“寒い”という要素にだけは全面降伏しちゃってやまぬ彼であるらしく。

 “今日は暖かいのにねぇ。”

まま、先の話を持ち出したのは自分だし、
ここはひとつ、罪滅ぼしに夕飯を奮発してあげよっか。
茶碗蒸しとか鍋は寒い日に回すとして、

 “とろとろ卵のオムライスとか、
  あ・そうそう、トウモロコシと玉ねぎの天ぷらも好きなんだよねvv”

オムライスと天ぷらというのは合わないかなぁ、
サツマイモご飯と天ぷらと、白菜のうま煮というのはどうだろう。
ショウガを利かせた甘口あんかけでとろりと仕上げたの、
美味しいって喜んでたしなぁ、なんて。
冷蔵庫の在庫を思い出しつつ、
ついでに…イエスがそりゃあほこほこ嬉しそうだったお顔も思い出しつつ、
和んだお顔のまま、ブッダが今宵の献立を考えておれば、

 ピンポ〜ン、と

やや間延びしたチャイムの音がして。
誰かお越しのようだったのへは、

 「あ、私が出るよvv」

寒いのやだやだと塞いでいたのもどこへやら、
何か楽しい事態がやってきたならいいなぁと思ったらしいの伺わせるよな、
それはそれは機敏な所作にて立ち上がってイエスだったりし。
退屈してただけなのかなぁと、それへも苦笑がこぼれたブッダ、
手元に開いていたタウン誌のページを繰れば、
時期が時期なだけに、聖バレンタインデーの特集がババンと見開きで展開されていて、
おおうとちょっぴり息を引く。
最愛のお人へは勿論チョコレートを贈る予定であり、
今年も何か手作りして、おやつかデザートにと出すつもりじゃあいるけれど、
見開きにて紹介されているのは、
シンプルなプレートタイプや
生チョコだろうか大人向けのトリュフに
様々な色やデザインのが並んだアソートタイプなどなどと、
まさに“贈り物vv”と言わんばかりの豪奢な体裁のものばかり。
その煌びやかさに、ちょこっと気おされてしまったブッダであり。

 “いやいや。こういう見栄えにこだわるなんて。”

どんなのが喜ばれるのかしらと
そういうところへも心を砕くことを見下しちゃあいないが、
捧げものとか貢ぎものじゃないんだからと、
思わずたじろいでしまった自分の胸の内をどうどうどうと宥めておれば、

 「わ、あ・はい・はんこですね。は〜いvv」

玄関の方でイエスのそんな応対の声がして。
途中から妙に弾んだ声になったものだから、ブッダの注意も引かれたという順番、
何だろうかと首を伸ばしてそちらを見やれば、

 「どうもでした♪」

やはり嬉しそうな彼が、伸びやかな声で相手へと声を掛け、
ドアががっちゃんと閉じる音と競うよに六畳間へ戻ってきたのだが、

 「ほら見てブッダvv」
 「おや。」

戻ってきたイエスが両手掛かりで抱えて来たのが、
ミカン箱、それも2キロ用より少し大きめの段ボール箱が1つ。
見たことがあるポップなキャラクターが印刷されており、
特に何て載ってはなかったこたつの天板の上へとんと下ろされたそれの、
それもサービスの良さか、ここを引いてと記されてあった開封口とやら、
封をしていた透明なテープの端がいかにも立っていたところをぐいと引くと。
ザクザクザクと小気味のいいノリで、
上の部分の閉じてあった封が容易に開くようになっており。
ぱかんと開いた段ボール箱には、小ぶりな箱が1つと封筒が1通。それと、

 「じゃじゃーんっvv」

素早く手を突っ込み、掴み上げたイエスがそれは手際よく広げた
かなり大きなサイズのフリースブランケットとやらが同包されてあり。

 「当たっちゃったvv」
 「そういえば、応募してたっけね。」

イエスのくじ運の良さはなかなかのもので、
ブッダにしても結構な引きの良さじゃああるけれど、
彼らの場合は
“もしかして奇跡が働いてのことだったら…”という懸念が沸くのがややこしいところ。
なので、ブッダは ほしいものへの応募でも一度しか手は合わせないし、
イエスもまた、

 「ハガキを出したの、忘れてたんだけどもねvv」

そうなるよう 意識したかどうかは別にして、(おいおい)
彼もまた、あまりに強く念じるのは危険だくらいは判っているようで。
それでも当たったというのなら、素直に恩恵を受けましょうとばかり、
最近やっと深く考えないことにするようになったお二人の元へと届いたブツは、
スナック菓子のロゴがポップにデザインされた、結構な大きさのフリースと、
箱の方は菓子の原材料だというジャガイモが2キロほど。
ブッダとしてはそっちの方が純粋に嬉しくて、

 「わ、みずみずしいお芋だねぇ。」

カレーやシチューにも向いてますってと、同封されてあったしおりに目を通しておれば、
そんな彼の背中へと、

 「ぱふ〜んvv」
 「わあ。」

蝙蝠の真似か、はたまたマントのつもりか、
フリースを自分の背中に負ったそのまま、
両端を掴んで広げた格好のイエスが、ブッダの背中へ貼りついてくる。

 「ほら凄いふかふかだよ、ブッダ。」

お菓子の懸賞の賞品だから、もっと薄くて頼りないものかと思ってたのにね。
ちょっとした毛布くらい厚みもあるし、
毛足が長くてふっかふかvvと。
意外にデラックスな仕様だったことへ、
殊の外、喜んでいるらしいイエスであり。

 「ほらほら、触ってごらんよ、ブッダ。」
 「う、うん。」

もっとベタにキャラクターとかロゴが出しゃばってるかと思ってたら それほど派手でもないし、
これなら外でブランケットとしても使えるかななんて。
微妙に“二人羽織り”状態になったまま、
はしゃいだようにそうとまくし立てたイエスだったりするのだが、

 「……。」
 「? ブッダ?」

嬉しいなぁ、よかったいいものが当たってと、
それは素直に朗らかに、嬉しい嬉しいと盛り上がってたものだから、
ついつい気配りが欠けていたかもしれないのは否めない。
ぱふりとしがみついてからこちら、ブッダの反応がやや鈍いと、
遅ればせながら気がついて、
おややぁ?と不審に感じつつ、
も少し身を乗り出すようにして おぶさった格好の伴侶様のお顔を覗き込めば。
こちらを向かぬままのブッダの横顔は、ちょっぴりぎこちなくも落ち着きがなくて。
イエスに気取られちゃあいけない、でもでも動揺は隠し切れない、
だって、気を悪くするかもしれない、水を差すことになるかもしれないしとかどうとか、
そんな気配り系の気配が感じられ。

 “でも、なんかぎこちないのがらしくないな。”

もしかしてフリースアレルギーだとか?
いやいや、確かフリースのパーカー持ってたよね。
でも、一番近いのがそういう感じの動揺っぷりだよねと、
それを察したイエスが怪訝そうに小首を傾げる。
日頃はそりゃあ落ち着いてるし、何かしらへ腹を立ててたって、
表向きはにぃっこり笑ったままという離れ業を苦もなくこなせるブッダのはずが、
一体何へこうまで狼狽えているのかなと。
着心地の良いふかふかブランケットに一緒にくるまったままで
どうしたのかなと案じていたものの、

 「………あ。」

何とはなし思い当たったことへ、そのままやれやれと肩を落とす。
それから、長い腕をするりと、でも出来るだけ優しく、
人に慣れてはない、幼い子鹿を怖がらせぬよう扱うように。
大好きで大切なお人の胸元周りへ回してくるみ込み、
きゅうと抱きしめて差し上げながら

 「もしかしてブッダ、
  ふかふかで気持ちいいのに屈しまいって頑張ってない?」

 「…っ。」

図星だったものか、
イエスにはこの上なく愛しい まろやかな肩が
やはりぎこちなく跳ね上がったのでございます。




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 *あああ、バレンタインネタだけど、間に合う気がしないです。
  気を長くしてお待ちを。

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